転生したら周りがスライムだった件 Season2 2話「オーバーキル」
「ありがとう、もう大丈夫」
「無理しない方が良い」
「学費をドブに捨て、異常に悪い脳みそ……何か弱点はないのか!」
「Fラン大学じゃどうしようもないわ」
「僕達の学費を使ってFラン生を再生産か……フッ……まるで将棋だな」
「そうか……『首席』を取れば!」*1
1.オーバーキル事件
①一人相撲が虚しいのは、一人だからってだけじゃない。観客の目が痛いんだ。*2
さて、弊学では希望者については2年生からゼミに所属する事が許される。最低レベルのコミュ力ながら、GPAの暴力を振りかざすことで、希望のゼミへの配属が叶ったが*3、入学後の1年強の期間を誰とも話さずにやり過ごしてきた人間が、学内のコミュニティーに馴染める筈が無かった。
が、僕は1年の時ですら誰とも話さずに全ての授業を乗り切った、なろう主人公である。"今更コミュニケーションが取れない程度で頭を悩ませる必要は無い"という、謎の自信に満ち溢れていた。
ー世界はそんなに甘くなかった。
世界への適応を拒否する人間が、少人数クラスのゼミ活動で、上手く立ち回れる訳がないのである。
授業前に雑談が行われる教室の中に僕が入ると、一瞬でその会話が止み、数十秒後に気まずそうに周りで会話が再開される。そのような光景が、常だったように思う。
初夏に差し掛かる頃には、チャイムと同時(一番最後)に教室に入り、授業後は真っ先に教室から出る事を心がけた。まあ驚くべき事ながら、結果的にこれを2年間続けたわけだが。
一応グループワークらしき作業はあった訳で、多少の会話は強いられた。が、その中身を思い返すとそれはそれは酷い有様だった。
例えば、文系にありがちな長めの論文の要旨プリントを作るにしても、彼らは僕の数倍の時間を要して、意味不明な文字の羅列が並び、書式も独創的な、まさに前衛的芸術作品を提出してくるのだ。
僕はというと大体初回授業で担当分を終わらせ、残りの数週間はPCの前でTwitterを徘徊していた。そんでもって最終回に周りが僕宛に提出したプリントと結合すると、差が歴然としていた。
立派なコピペレポートの出来上がりである。実際にコピペをしているのに低クオリティなのは周りのスライムたちなのだが
なろう主人公は村人Aたちとは格が違うのである。僕には★チート★が使えるのである。
②涙*4
ある日のゼミ活動のことである。2週間にわたって上級生の研究発表会なるイベントが開催され、聴講者として参加する事になった。
「ここで目立って教授のポイントを稼がなければ(使命感)」
という打算に満ちた心持ちで意気揚々と当日を迎えた。
その初週。いつもの様にスーツ姿で着席すると、登壇している上級生が「何だあいつは」という目を向けてくる。これにはもう慣れたもので、向けてくる視線と雰囲気で自分がどう思われているか分かってしまうのだ。
同学年含め、30~40人前後の聴講者が居た気がする。間に合わせ感の強い(字下げが統一されてない、明朝体とゴシック体が混ざるなど)プリントが配られ、発表会が開始された。
何点か面白いと感じる物もあったが、「あーそうですね」で済む既知の発表が大半を占めた。これがFランクオリティーである。
それだけならまだ良いのだが、発表内で明確な嘘を述べている登壇者(女子大生=Aさん)がいた。
・著名な作品が属するジャンルを間違える*5
・明らかに時系列が後の出来事を原因、前の出来事を結果、の様に因果関係を逆転させる*6
と、本や論文を元に作成した筈なのに、頓珍漢なプリントを仕上げて発表を行っていたのだ。加えて、発表自体もプリントを丸読みするだけで面白味も何も無かった。これはほぼ全員に共通したが。
――休憩時間を挟み質疑応答の時間に入り、周りを見渡したら半分くらいの人が船を漕いでいた。
当然、誰も手を挙げなかった。まあそんなもんだとは察していたが。
そういえば、教授に「毎年やってるんですけど全然盛り上がらないので皆さん積極的に参加して質問下さい」と言われた記憶がある。
「ここがチャンス」とばかりに質問のネタを絞り出し、以降を独壇場とする決意を固めた。
「えー、2年のADMです。」と言うと、
「(あいつ2年かよ)」という無言の声が聞こえた気がした。
さて、問題のAさんの番に入った。
Twitter曰く、頓珍漢な発表に対して質問をする際は、「素人質問で恐縮ですが……」と枕詞をつけるのが良いらしい。まあ僕は学生なんですけど。
ぼく「えー、2年のADMです。素人質問で恐縮ですが……何点か自分の認識と違っている点があるので、確認させてくだs(ry」
ぼく「〇章の真ん中あたりの説明って、時系列考えると、矢印の方向が逆じゃないですか?説明の順番が逆だった気がします。」
ぼく「12世紀ルネサンス期の芸術家として、何名か挙げてましたけど、その人達は全員後世の人じゃないですか?あと、〇ページ目の……(ry」
ぼく「以上です。」
活舌の悪い自分にしてはスラスラ言えたと、すっきりした気分で着席した。
すると、Aさんから"質問事項の確認"という体で何故か反論らしき応答が来た。
「3年のAです。質問ありがとうございます。私の読んだ本には……(ry」
青春時代の半分をなんJとTwitterに費やし、フォロワーが勝手にfaridyu*7のツイートをRTしてくれるTLに常駐するこの僕が屁理屈の捏ね合いで負けるはずがない。
おまけに6年間、弁が立つ同期に囲まれながら過ごしてきたのだ。*8
ここで引き下がったら、なろう主人公ADM内野手の名が廃る。受けて立とうではないか。
よろしい。
レスバトルだ。
ぼく「いや、だって、アヴィニョン捕囚って14世紀ですよね。*9十字軍自体は11世紀から始まっているので、それは順序が逆ですよ。そもそも教皇の権威が落ちたのって……(ry」
Aさんが、壇上で焦りながら、ペラペラと本をめくる音が聞こえる。
ぼく「で、ダヴィンチとかミケランジェロって15世紀くらいの人ですよね。そもそも12世紀ルネサンスは……(←山川の資料集で齧った知識)」
ぼく「多分その本でも、ちゃんと12世紀ルネサンスとルネサンスって言葉は区別されて使われているんじゃないですか?」
1ミリの反論も許さない完璧な返答。これが常識力の差である。格が違いすぎて申し訳が無い。★完全勝利★したと思った。この時までは。
反論を待つ間は暇なので、座席に座ろうとしたその時であった。
マイクを通して鼻をすする音が聞こえた。
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
『おれは奴の前で普通に質問していたと思ったらいつのまにか泣かれていた』
な… 何を言ってるのか わからねーと思うがおれも何が起きたのかわからなかった…… 頭がどうにかなりそうだった…
―生まれてこの方、女性との縁ななんて1つもなく、当然女を泣かせる高等テクニックなんて持ち合わせていない『陰キャ・ぼっち・童貞』ADM内野手。
生まれて初めて女性を泣かせてしまった。
流石にテンパり、困った僕は取り敢えず教授陣を見た。
目を逸らされてしまった。うーん、この。Fラン大学は教授までFランらしい。
仕方がないので、司会者に「次の人に質問良いですか?」と聞いて、その場を収めた。
その後の会場の雰囲気はお察しである。ただでさえ、変な下級生が1人だけ10人近い上級生の発表に噛み付き続けていたのだ。
おまけに『女の涙』という、最強の生物兵器までも登場させてしまったのだ。以降の質疑応答のテンポは格段に落ちた。唯一質問していた僕が『泣きテク』にやられ、何をすればいいのか分からなくなったからだが。
③襲名『オーバーキル先生』
翌週の研究発表会前。僕は1人、「自分の言動に問題はあったのだろうか?」と振り返っていた。調子に乗って言い方にとげが無かったか、詰問してはいなかったか、など思い返してみた。
かなり真剣に思い悩んだが、"多分そんなことは無かった"という結論に至った。普通に事実確認の質問をしただけですしお寿司。
というか、仮にクソな発表をこき下ろしたとして僕に罪があるのか。クソな発表をする方が悪いし、なんなら二十歳を超えてこんな事で泣く方が悪いのである。
僕はなろう主人公だ。僕の行動はこの世界に認められているに違いない。
という事で、悪びれずに平常運転で臨むことにした。当然、いつものスーツ姿で。
少し遅れて会場に入ったら、壇上でスタンバイしていた上級生から
「うわ……オーバーキル先生来ちゃったよ……」
という声が聞こえてきた。決して幻聴ではない。その後、クスクス笑いが聞こえてきたし。
どうやら上級生達から先週の発表会後に"オーバーキル先生"というあだ名をつけられてたらしい。
この1年間、キャンパス内で学生と会話らしき会話をした覚えはない。当然、周りに自分の事を呼ばれたことが無かったし、呼び名なんて知らなかった。
僕は周りのスライムたちの名前を知らないし、その逆も然りなのだから。
――転生して、初めて呼び名をGETした。少しだけ嬉しかった。まあ、この後彼らと仲良くする機会は訪れなかったわけですが……
2.次回予告
2年目の夏。着々と首席の座を固めに行くADM内野手に試練が訪れる。
「成績評価 1.出席点30% 2.小テスト30% 3.期末課題40%」
12週目にして初出席した、とある授業。知らない間に出席が取られ、成績評価基準が変わっていた。絶望的な単位取得。果たして運命の女神は微笑むのか?
ステータス
名前:ADM内野手
種族:オタク
称号:陰キャ・ぼっち・童貞
バイト戦士
Fラン大学の優等生
評点2.3・GPA4.0
代講者
ありふれた大学で学内最強
開成の底辺・Fランの頂点
オーバーキル先生←NEW!!
魔法:『出エジプト』
『シラバス勉強法』
技能:ユニークスキル『塾講師』
ユニークスキル『社畜』
耐性:ぼっち耐性ex