転生したら周りがスライムだった件 Season1 5.5話『帽子の中』
現在作者は上手いサブタイトルやプロローグの元ネタを探す旅に出ているため、総集編として、大学1年前期で経験した小話で話数を稼いでいきます。
大学1年編5.5話
(1)握手会の一幕
①オタクは何故帽子を被るのか?
個人的2020年twitter流行語大賞なるものがあれば、間違いなく"チー牛"を選ぶ。僕のTLには毎日のように見慣れた画像が流れてくる。
"陰キャ"とほぼ同義で使われ、その語感の良さからも、完全に定着しつつあるように思う。
実際、"陰キャ・ぼっち・童貞"たる自分は、こんな顔をしている。更に秋葉原やコミケ会場を彷徨く同族もこんな顔をしているため、これが陰キャの平均顔であることは間違いない。*1
さて、ではオタクの平均的風貌というと、何を思い浮かべるだろう。(陰キャとオタクは同義だろという陽サイドからのツッコミはさておき)
因みにGoogle画像検索で「オタク イラスト」と検索すると、いらすとやさんの画像が真っ先にヒットする。
そう。オタクの代名詞と言えばこれではないだろうか。ポスターが入ったリュックサック・チェックのシャツ・黒縁眼鏡を装備する。
加えて奴ら(我々)の多くは、何故か頭に何かを巻いている。単純にグッズとして身に着けている意味だけではない。汗をかきやすい体質だったり、オタクの集まるイベントはコロナウィルスも逃げ出すほどの"三密"環境で暑苦しい、など理由は多々あるだろう。
そして、屋内であるにも関わらず帽子を被る層も一定数存在する。ただでさえ暑苦しいイベント会場では、どう考えても邪魔ではないだろうか。
本章では、そんなオタクが被っている帽子に隠された(?)秘密を暴いていきたいと思う。
②欅坂発煙筒事件後の握手会
この事件を覚えている方はいるだろうか?
4日午後8時15分ごろ、千葉市美浜区の幕張メッセで行われていたアイドルグループ「欅坂46」の握手会会場で「発煙筒を投げこんだ男がいる」と消防署に通報があった。千葉県警千葉西署員らが駆けつけたところ、イベントスタッフに取り押さえられた男が果物ナイフを所持しており、同署は銃刀法違反の現行犯で男を逮捕した。
逮捕されたのは自称札幌市白石区の無職、阿部凌平容疑者(24)。調べに容疑を認め、女性アイドル名を挙げて「殺そうと思った」などと供述しているという。阿部容疑者が挙げた名前について、同署は「言えない」としている。産経ニュース 2017.6.25の記事より*2
欅坂46の握手会会場の、メンバーのすぐ近くで、発煙筒と果物ナイフを持った男が取り押さえられたという、ショッキングな事件だった。
この事件によって、メンバーのすぐ近くの場所まで、発煙筒に加えてナイフを所持していたという、ガバガバ警備体制が顕在化した。(この3年前にノコギリ事件などが有り、それなりの警備体制の強化が行われていたが案の定であった)
その後の対応にも問題があり、ドルオタ界隈から運営への非難の声が上がっていた。その中の1つとして、"翌日の握手会が通常開催"、という点が挙げられる。自分の数m近くまで、殺意を持った人間が刃物を持って襲ってくるという、メンバーの恐怖を考えれば、中止が妥当という声が上がるのは当然だろう。
結局、翌日の握手会は、一部メンバーも欠席したものの、欅坂を含む、48&46系列グループの全てにおいて、"警備体制の強化"の下、通常通り開催された。
③数年振りの俵取り?
さて、この翌日の握手会であるが、実の所僕も参加していた。と言っても、握手してもらう側ではなく、スタッフ側として。
丁度その頃、野球のチケット代が嵩み、資金繰りが苦しくなった為、暇な土日にできる単発バイトの会社にスタッフとして登録していた。すると、大量に来る迷惑メールの中に、拘束時間が長い=日給が高い、案件として握手会スタッフの募集を発見した。
自身がドルオタだった頃もあり、勝手知ったる元ホームグラウンドへと申し込んで、僕は数年振りに会場へと降り立った。
経験者の方はご存知かもしれないが、この手のスタッフの朝は早い。10時から開始のイベントに、平気で6時集合もあり得る。例に違わず、この案件も同じであった。
「握手会って実際どんな感じなの?」という方も多いと思うので、当時の様子が分かる図を添付する。矢印の向き通りに進み、柵の向こうにいるメンバーと既定の時間のみ、握手ができるという流れだ。
スタッフの仕事の種類も様々だ。プロの警備員を手伝いながら会場の見回りをする者もいれば、実際に握手が行われるレーン内で作業をする者もいる。各レーンに必ず配置されるのが「タイムキーパー」と「剥がし」である。
握手会は握手券1枚=○○秒と、握手ができる秒数が決まっている。
その為、タイムキーパーは、オタク間の不公平感を生まないように、正確に時間を計測する係としてひたすらストップウォッチを弄る。
そして剥がしは、時間が過ぎても握手を続ける厄介なオタクを、メンバーから引っぺがす(&警備)役割を担当する。
そして当日朝7時、微睡の中で彷徨うADM内野手は、偉そうな人から剥がしをやれと言い渡される。
ぼく(……いや昨日事件起きたよね??!バイトにやらせるの??)
バイトに拒否権はない。というか、後から知ることだったが、この手のスタッフの殆どが僕と同じ単発バイトの人間だった。僕は雑な指導の下、仕事の流れを教わり、いざ会場内のレーンへと向かった。
仕事の流れを説明しよう。
- オタクが勝手に並んでくれるので、1人ずつブースへ案内する
- 荷物をかごに入れさせる
- 手に何も付けていない事を確認するために、掌を見る*4
- メンバーとオタクが握手するのを監視する(危害を加えない・暴言などを吐かない)
- タイムキーパーの合図に合わせてオタクを剥がす。
以下1~5の繰り返しとなる。
この仕事、普通にやる分には非常に退屈である。オタクの意味不明な語りや、メンバーの服の話など、興味ない上に、ずっと立ちっぱなしで疲れる事この上ない。
しかし、1つ懐かしさを覚えさせてくれる場面があった。
剥がす時は、オタクの肩を持ち出口方向に押したり引いたりするのだが、この動作を繰り返す際にある思い出が思い浮かんだのだ。
ぼく(これ俵取りでやった奴じゃん!!)
肩に手をかけて、水平方向に投げる。綱取りや俵取りでお馴染みの動作だ。上方向に引っ張れば首上で警告、地面方向に投げると投げつけで一発退場。握手会の場合はクレームだろうか。
中3係の時は、実戦練に参加する機会がなかった為、実に5年ぶりの俵取りであった。当時指導して下さったCは、現在巨大プラットフォーム企業でエンジニアをされているらしい。
そんな事を思い出しながら、汗で濡れたオタクの肩を持ち、ひたすらに剥がす作業に勤しんでいた。
④Keep your hands up!!
その他、個人的にツボだった事を紹介したい。
前章で記述した通り、握手をする前に掌に何も塗っていない事を確認する作業が存在する。平常時は軽く確認して、手が見えたままの状態で(ポケットに入れるなどはNG)進んでもらのだが、この日は厳戒態勢(?)であったので、一手間加わっていた。
手をずっと挙げたまま、数m先のメンバーの元へ進んでもらうシステムへと変更された。
ぼく「はい、掌見せてくださーい」
オタク(掌を見せる)
ぼく「はい、そのまま手を肩の位置まで上げてくださーい」
オタク(手を上げる)
ぼく「はい、そのまま前に進んでくださーい」
オタク(歩く)
人質を歩かせる銀行強盗のようだ。丁寧語使っているけど。
捕虜を連れて戦場を闊歩するテロリスト達や、銀行強盗の気持ちを味わうことができた。
相当シュールで笑いを堪えるのが大変だったが、更に印象に残った場面が存在する。
⑤帽子の中
実はこの日に新しく加わった作業が存在する。それは握手前に帽子を取るというものだ。どうやら帽子の中に何も入れていない事を確認するらしい。
……意味が分からない。一体彼らは帽子の中に何を隠しているのだろうか。まあバイトに疑問を挟む権利は許されていない。大人しく従うことにした。
開始から10分ほど経つと、早速帽子を被っているオタクが、僕が担当するレーンに並んできた。
ぼく「はい、掌見せてくださーい」
オタク(掌を見せる)
ぼく「はい、帽子とって貰っていいですかー?」
オタク(……無言で動きが止まる)
一体どうしたのだろう。聞こえにくかったのだろうか。
ぼく「帽子とってくださーい」
オタク(……スッ)
バーコード頭(コンニチワー)
綺麗なバーコード頭がそこにあった。思わず吹き出しそうになった。
そう。オタクが帽子を被るのはハゲ頭を隠すためなのだ*5。
そして妙に申し訳ない気持ちになる。アイドルガチ恋勢が本命の子に頭を見られると、どんな哀傷を持ってしまうのか想像してしまったのだ。
――ぼっち生活が長すぎて忘れてしまっていた。小学校2年生から高校卒業まで数多くつけられた自分のあだ名の1つを。
???「はげー、iphone貸してー」
まだ、スマートフォンが普及する10年前の教室で偶にあった光景だ。うーん、懐かしい。当時はiphone3GSだったなぁ。
卒業の頃でも、赤と青の団長など数名の僕の呼び方が「ハゲー」だった事を思い出した。
その後もやってくる、帽子を被ったオタク達。スッと脱ぐ者もいれば、躊躇う者もいる。後者の多くは前述の通りであった。
帽子を取った時に、僕の後ろの方からくぐもった様な声が聞こえた場面もあった。
ちなみに僕の後ろにはメンバーしかいない。
ぼく(……え、今笑い堪えた???)
聞き間違いであったと信じたい。そうであってほしい。
こうして、僕の一日は過ぎていった。数日後に賃金として諭吉さん1枚を手に入れたが、拘束時間も長く、ずっと立ちっぱなしで疲労度は相当なものになる。加えて人気メンバーは警備員が近くに常駐しているが、それ以外の場合は、実質的に警備を兼ねる事になる。常に気を張っている必要がある為、気疲れもする。
握手会系のバイトで、当日何処に配置されるかは不明だが、少なくとも剥がしはおススメしない。
(2)コンサートでの一幕
一回やってみたかったので、近場で開催されていた某人気声優ユニットのコンサートライブのスタッフに応募してみた。即採用された。
午後スタートなのに集合は午前中なのは握手会と変わらず。
コンサート系のバイトも様々な役割が存在する。会場内外の何処に配置されるかワクワクしていたADM内野手には重大な役割が与えられた。
偉い人「君は取り敢えず待機要員ね」
会場着1秒後に要らない子扱いされた。休憩に入った人の穴埋めに行けというらしい。という事で暫く控室で大人しく座っていた。
――3時間後
ぼく(暇だ……)
まだ控室に居た。というか控室から一歩も出ていなかった。誰も交代しないのだ。
初めは暢気に過ごしていたが、余りにも暇すぎた。初めの頃はスマホに英語のレジュメがあったので此れ幸いと試験に備えて英語の勉強を始めていたが、それも飽きた。
この時間に時給は出ているのか、それだけが心配だった。
―6時間後、コンサート終盤
偉い人「交代できる人ー?」
ぼく「いきまあああす!!」
遂に出番が到来した。暇すぎると人間は仕事の貴賤など気にしなくなる事が分かった。
どうやら、演者がトロッコで会場を一周して歌うようだ。トロッコの通路近くの出入り口を塞いで、終わったら舞台近くの通路で待機すればいいらしい。
会場に入ると、後に同族になるオタクが盛り上がっている(この時の僕は声優沼に堕ちる前で、ユニット名も声優さんの名前も聞いたことがある程度だった)。客層は若い人が多かった。
室内コンサートは初体験だった。ペンライトの光が美しい。
何より涼しい。近くのオタク皆汗かいてるけど。
トロッコが近くを通る。(この人が○○さんかーめっちゃ美人やん)などと思いながらソロソロと移動し、舞台近くに移動する。近い。声優さん可愛い。何なら会場内の99%のオタクより舞台に近い。
結局仕事らしき仕事をしたのはこの1時間だけだった。知っているアニメのOP曲が何曲か聞くことができた。結構テンション上がった。
アンコールが始まる前に控室に戻り、また待機生活が始まる。
コンサート終了後の片づけでは椅子を5個運んだ。5個だけ。ぼくはとても頑張った。
数日後には1万円振り込まれていた。1時間だけ舞台近くで曲聞いて、椅子何個か運んだら1万円が手に入った。今後も、こういう人生を送りたい。
まとめ
ぼく:1万円貰って曲を聴く
⇔オタク:1万円払って曲を聴く
ぼく:涼しい環境で曲を聴く
⇔オタク:暑苦しい環境で曲を聴く
ぼく:舞台近くで曲を聴く
⇔オタク:座席は抽選
神バイトでした。この記事を読んで下さっている方、お金は積めるのでアイマスのライブに連れて行ってください。
(3)次回予告
前期の試験でフルスコアを修め、大学のヌシとして、Fラン転生主人公として歩むことを決めたADM内野手。そんな彼が後期授業初日で居た場所とは?
―――次回。1年後期編、開幕。
ステータス
名前:ADM内野手
種族:オタク
称号:陰キャ・ぼっち・童貞
バイト戦士
Fラン大学の優等生
評点2.3・GPA4.0
魔法:なし
技能:ユニークスキル『塾講師』
ユニークスキル『社畜』
*1:個人の見解です
*2:https://www.sankei.com/affairs/news/170625/afr1706250004-n1.html
*3:https://operaglasses48.blogspot.com/2019/04/zenaku01.html より引用
*4:〇液を塗る奴とかが居るらしい
*5:個人の見解です。