転生したら周りがスライムだった件

Fラン転生なろう小説です

転生したら周りがスライムだった件 Season1 2話『バイト戦士』

 Fラン転生から1か月。そろそろ働こうと決意したADM内野手は、近所の塾の門戸を叩く。ワクワクの新生活が始まったけど、早くも緊急事態発生! 「現在完了」ってなに??  大学1年編②

 

 

 

(1)バイト生活始めました!*1

 

 2017年7月、都内の某個別指導塾には、村人Aからバイト戦士へとランクアップを成し遂げ、水を得た魚のように働くADM内野手の姿があった。

 

 大学生とは金のかかる人種である。「いやお前サークル入ってないし友達いないから金かからないじゃん?」と1話を読んだ方はツッコミを入れて下さるだろう。ありがとう、その通りです、大きなお世話だ。

 オタクとは金のかかる生き物である。ADMパッパから無情にもお小遣い打ち切りの通告を受けたため、なし崩し的にアルバイトを始めることになったのだ。

 

 特にやりたい事も無かったのだが、同期各位が塾講関連の仕事をする事が多い為、右に倣えと、Fランでも雇ってくれると噂の所へ""家庭教師""の仕事を貰いに面接を受けに行った。面接がこんな風だったと記憶している。

 

 オーナー「集合と個別とあると思うんですが、どうして個別を選ばれたんですか?」

 ぼく「集合だと人数が多いため、目も行き届きにくく、教える側として生徒1人1人の成長を実感しにくいのかなと」

 オーナー「なるほど。個別指導の塾の経験はありますか?」

 ぼく「(個別指導の塾ってなんだ……?)サピックス河合塾しか通ったことはないです」

 オーナー「それではご説明させていただきますね。こちらの教室では講師1人につき生徒を2名教えるスタイルを取っています。くぁwせdrftg」

 ぼく「(え、僕ここで教えるの?家庭教師って教室で教えるの?生徒2名???)」

 

 中高と塾に通っておらず、その辺の知識を全く持ち合わせていなかった僕は、そもそも「個別指導塾」の存在を知らずに、家庭教師の採用を行っている所だと勘違いして求人に申し込んでしまったのだ。

 途中で何かおかしいと気付いた後の冷汗はなかなか止まらなった。が、万年人手不足の教室はそんなことは歯牙にもかけずに、僕は無事採用されてしまった。

 

 念願の、そして地獄の講師生活の幕開けである。

 

ステータス

 名前:ADM内野手

 種族:オタク

 称号:陰キャ・ぼっち・童貞

 魔法:なし

 技能:ユニークスキル『塾講師』←NEW!!

 

 

 

(2)大変な事に気付きました*2

 

キャンパスから存在がフェードアウトするのとは真逆に、僕は徐々に塾のコマ数を増やしていった。新人=低賃金(しかも暇そう)を酷使するは世の常だ。

 教室に通う生徒の内訳は、3割が小学生、6割が公立の中学生、1割が高校生である。ほぼ全員が近所に住んでいる子供達だ。

 

 早速事件が発生する。授業初回の数日前に使用予定のテキストを開いたところ、「現在完了」の文字や「have+過去分詞」などとある部分で、脳がフリーズしたのだ。

 横の”I have played soccer for three years”⇔”私は3年間サッカーをしています” のような和訳&英訳は全く問題ないのだが、テキスト(教科書準拠)に書いてある日本語の解説箇所が全く解らなかったのである。

 

 落ち着いて読むと確かに、頭の中に浮かぶ英訳文は全部「have+過去分詞」の形をしていた(というかそもそも過去分詞が何かすらも解っていなかったが……)。

 その語もペラペラ捲るも、同じことの繰り返し。英訳も和訳もできるが、日本語の解説部分に見覚えがない。中高6年間、僕はA先生とN先生に何を教わっていたのか。殆ど寝てたのか。

 などと遅すぎる後悔が脳裏を掠めるなか、偏差値78の高校を卒業したはずの僕の目は、終いには中学校1年生の「be動詞」の単元を真剣に追っていた。

 

 be動詞と一般動詞を並べて使ってはいけなかったのだ!!(そもそもbe動詞が何か良く分かっていなかったのは内緒)

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一通りの作業を終えて簡単な事実に気付いた。

自分の勉強方法が根本的におかしい事に。

 

 

(3)人類の言語獲得方法について

 

 唐突であるが、"ピジン言語"と"クレオール言語"という言葉はご存じだろうか。本記事を書いている最中に、ふと数年前に読んだ言語学関連の本について思い出したので、その一部を記述したいと思う。

 

 上記の2語はコトバンクにおいて以下のように記述される。

 

〘名〙 (ピジンはpidgin business の中国語なまりからという説も) 共通言語をもたない複数の集団が接触して、集団間コミュニケーションの手段として形成される接触言語の一種。音声面では一方の言語を、単語と文法の面では他の言語の形を強く残し、文法はかなり簡略化される。ピジン語の話者は日常生活での母語を必ず持つ。世界各地に見られるが、太平洋諸島でのピジン英語がよく知られる。

  コトバンク 精選版 日本国語大辞典 より

 

〘名〙 二つ以上の言語が接触してピジン語が形成された後に、それが使用地域の人々全体にとっての母語となってしまった場合の言語をいう。カリブ海域のハイチ語、インド洋のセイシェル語、西アフリカのシエラ‐レオネのクリオ語などがよく知られている。

  コトバンク 精選版 日本国語大辞典 より

 

 

 つまり、互いの共通言語を持たない集団同士のコミュニケーションを成立させるために、文法や発音規則が単純化(もしくは存在しない)し、用いられる語句が少数且つ多義化している言語がピジン言語である。

 次に、そのピジン言語を母語として育った第二世代は、いつの間にか文法・発音規則を統一・発達させ、高度なコミュニケーションが可能となる、クレオール言語を生成する。

 僕は言語学を専攻している訳でもなく、詳しく記述するとボロが出そうなので、概説程度に止めるが、このような一連の言語生成・獲得までの実例が、奴隷交易が行われていた地域や、中世以降の商人の間で確認されるらしい。

 

 また、言語獲得に関連する言葉として"臨界期仮説"なるものが存在する。


 言語獲得および第二言語習得における臨界期仮説(りんかいきかせつ、英: critical period hypotheses)とは、臨界期とよばれる年齢を過ぎると言語の習得が不可能になるという仮説である。母語の習得および外国語の習得の両方に対して使われる。第一言語第二言語の両方の習得に関して年齢が重要な要素となっていることは定説となっているが、はたして臨界期なるものが本当に存在するのか、また存在するとしたらそれがいつなのかなどについては長い議論があり、仮説の域を出ていない。 Wikipediaより

 

 

  要するに10歳前後を過ぎてから、新しい言語を勉強しても上手くいかないといった類の説だ。バイリンガルとして活躍する人の多くが、帰国子女であったり、幼少期に多分に他言語と触れる機会が多いことを鑑みると、素人目には納得できる仮説だと感じている。

 

 昨今の教育界では、英語の「4技能」の重要性や、小学校英語教育の義務化、入試制度改革などの議論が展開されているのは、周知の事実だ。

 「4技能」や大学入試への民間試験導入に関しては心底アホらしいと思っているが、英語を使いこなせるような教育システムを創りあげようという、文科省の意図自体は否定されるものでは無いと思う。

 かくいう現在の僕も、""英語力""という観点に立つと日常会話レベルすら覚束ない。僕のような人間を輩出しないためにも、良い改革が為されることを願う。

 

 閑話休題

 

 

(4)異世界転生における言語問題

 

 高校時代の英語の授業の記憶は殆どない。高3に上がると、英語の演説が毎時間流れていた事を、耳が覚えている程度だ。

 定期試験をどのように乗り切っていたかというと、テキストの丸暗記である。そもそも英語に「文法」があり、それに沿って文が形成されるという認識をしていなかった。割とマジで(中学までは真面目に授業受けてた気がするのに……

 この歪な認知が確立した理由については、自分の幼少期の英語教育に起因すると感じているのだが、本項では割愛させて頂く。

 

 大学受験に於いてもこの頭のおかしい勉強法は続いていた。完全な独学である。DUOを片手に例文と一緒に単語を叩き込んで、長文を何となく読んで何となく選択肢を選ぶ。読めない文章は単語が分かってないからと自分で納得する。*3。要するに、文法の勉強は一切せずに、多数の例文を基に、英文法・構造に関する独自の解釈をしていたように思う。

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 この結果、2度目のセンター試験の頃には、失点源が大問2の文法問題に集中するも、176点を取って

 「ふっ、まあまあかな。」

 と安堵する享楽的な浪人生が出来上がりである。 

 

 さて、そんな認知の歪みを抱えていた僕は、"英語を教える"="英文法を教える"という塾における指導に大きな戸惑いを覚えた。

 そこからの行動は素早かった。テキストをこっそり持ち帰り、「be動詞」から英文法を勉強し、何とか中3範囲までの3冊分を終わらせた。僕がバカな分には(多方面に迷惑をおかけしている点は大いに反省している)最終的に僕が困るだけだが、他人に教えるとなったら話が別である。元来の性格が久々に良い方向に傾いた一時だった。

 

 それだけで済めば楽だったのだが、次々とコマが振ってくる。高3受験生の英語を担当することになった時は、流石に肝を冷やした*4

 いつ配られたか定かではないスクランブルを取り出し、大学の課題はそっちのけで勉強を進めた。

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 中学レベルとは話が違う。数日で終わる量ではない。僕は、勉強から逃げ続けた6年間の負債を、今後長きに渡って利子付きで返す義務を負っていることを、今更ながら自覚した。

 

 しかしながら、所謂教科書通りの勉強方法は、一種の快感を与えてくれた。今まで脳内に四散していた沢山の例文が、実は一定の規則の下に成立する事実を知覚した途端に、勉強への嫌悪感が薄れていったのだ。(まあ、結局英語を話せるようにはならないわけだが)

 

 最終的には夏休みを終わる頃には、高校範囲の基礎的な学習も数周が終わり、幾分かマシな講師の姿になっていた。TOEICスコア等にもその成果は表れ始めた。

 

 ところで、このブログのメインはFラン転生物語である為、他のなろう系異世界転生モノを参考にさせて頂くことが多々ある。1つ疑問に思うのは「転生した主人公は何故異世界で会話を成立させているのか」という点だ。

 

 異世界転生ラノベの先駆けである『ゼロの使い魔』では、ヒロイン兼ご主人様のルイズによる魔法で、平賀才人とのコミュニケーションが成立していた覚えがあるが、他作品の多くでは触れられている覚えすらない。これは由々しき事態だ。

dic.pixiv.net

 

 言語の壁を記述せずして、転生モノが存在してはいけない。何故なら、私が転生したFラン大学という世界では、言語が通じないからだ。というか同じ言語規則に則った会話が行われていない場面が多々ある。

 

 ある日の授業前に、後ろの席の方で陽キャ軍団が

 「気分がフォールマウンテンだわwww」

 などと騒いでいた時は流石に混乱した。「マジ卍」レベルの会話が大学で行われているとは思いも寄らなかった。彼らはこれで意思疎通が図れているらしい。気分良いのか落ち込んでるのかどっちだよ。

 僕にはとても出来そうにないので、彼らと会話をする機会が訪れたら、辞書を作成してから臨もうと決意した一幕である。

 

 余談を続けると『異世界語入門~転生したけど日本語が通じなかった~』というライトノベル(WEB版リンクはこちらから*5)は、この辺りの言語問題に真摯に向き合っている(というかそれが主題)。

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 なろうにしては非常に読み易い部類に入るので、興味の湧いた方は是非読んでほしい。

 

 

 さて、先輩方に可愛がってもらいながらバイト生活を軌道に乗せ、村人Aから『バイト戦士』へのランクアップを果たしたADM内野手。しかし一方の大学では相変わらずの体たらくであり、来る大学の定期試験に怯えていた。 

 

 ――――運命の初夏が到来する

 

 

ステータス

 名前:ADM内野手

 種族:オタク

 称号:陰キャ・ぼっち・童貞

    バイト戦士←NEW!!

 魔法:なし

 技能:ユニークスキル『塾講師』←NEW!!

    ユニークスキル『社畜』←NEW!!

 

                           続く

 

 

 

 

*1:デスマーチから始まる異世界狂想曲 WEB版 第1章1-3 タイトルより改変

*2:賢者の孫 WEB版7話タイトル より引用

*3:現役時の学力と入試までの期間では、コスパ的に最良だったと今でも思っているが、恐ろしい事に浪人してからも続けていた。

*4:最終的に第一志望校に合格した。訴訟にならなくて安堵した

*5:https://ncode.syosetu.com/n4955ee/