転生したら周りがスライムだった件

Fラン転生なろう小説です

転生したら周りがスライムだった件 Season1 1話『転生初日』

 

 

 

一浪の末に某大学に合格通知を貰うも社会的に死んでしまった、19歳のナイスガイ。我に返って周りを確かめたら、周りがスライムになっていた!*1 大学1年編①

 

 

 

(1)自然権基本的人権

 

 人権とは何か。バイト先の教室で公立中3生に社会科を教えている私にとって、至要たる問題でありながら、明瞭な説明が出来ない物である。中学校の教科書にも、「健康で文化的で最低限度の生活」や「新しい人権」など人権に関する記述は多分に存在する。

 近代国家成立から時を少し遡ると、ホッブズは、自然状態から共同成立への過程において、自然権を放棄し国家との社会契約が成立する必要性を説き、国家と法、人権の関係に新たな着想をもたらしたとされる。

 現行の日本国憲法では第11条に

「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。」

との記述がある。

 国家の人権保障が自然権思想に立脚するかどうかは議論があるようだが、取り敢えず日本国民に人権が与えられているのは間違いないはずだ。

 

 それはそれとして僕には人権が無い。

 

 この文章を読んで下さっている方はご存知の通り、僕は所謂オタクである。

 近頃、おそ松さんブームや鬼滅ブームのお陰で、サブカルコンテンツへの認知度が男女を問わず飛躍的に上がり、オタクは市民権を得たと言われるまでになった。

 しかし、仮にオタクが市民権を得たとしても、オタクである僕に人権があるかと言うと、残念ながらそうとは思えない。オタク内の階層が細分化されて、自分がその最下層に位置するだけかもしれないが、とにかく今の僕には人権が無いと自覚している。

 

 さて、僕に人権が無いのは、自分がオタクだから悪いのだろうか。否である。オタクであることを逃げ道に、自分で自分の首を絞めるべく、社会的動物としての人間の営みを拒否し続けた当然の報いである。

 本ブログ「転生したら周りがスライムだった件」では、そんな私の大学生活を振り返りつつ、人権を放棄しながら生きた軌跡を、ノンフィクションでダラダラと書いていこうと思う。

 

  ~これは『陰キャ・ぼっち・童貞』ADM内野手が、転生したFラン大学でなろう主人公として活躍するまでの物語~ (CV.花江夏樹

 

 

(2)社会的に死亡~そしてFラン転生~*2

 

 2017年5月、入学1月後の僕は教場の前から4列目の席を指定席としていた。

 Fラン私文で授業を真面目に聞いてる奴など履修者の1割も居ない。他大学でも同様かもしれないが、私文の学生の3割は自主休講を常とする。5割はスマホを弄って、残りの1割は後ろの方で寝てるか周りの奴と駄弁っているかである。

 その中で、授業内で触れられる事もない指定教科書を読み込んでから授業に臨み、板書を一語一句違わず写し、疑問点があったら足繁く教授の元へ聞きに行く自分は、今思い返すと特異な存在であった。(まぁ、この姿は半年も続かなかった訳だが)

 高校時代の僕の授業態度や成績を知る同期各位には信じ難いと思うが、1年間の浪人生活を経て、面持ちは模範囚のそれであるが、僕は模範的な生徒に生まれ変わっていた。

 円卓の騎士*3 の一席をキープし続け、全教科赤点の快挙(?)を達成し、高3時の三者面談で高卒認定試験の案内を受けた奴が、上記の様な姿になってしまったのは、偏に"退学"への恐怖である。

 

 思い返せば中高6年間、本当に友人には恵まれていた。

 学期末試験が近づくと団長の鶴の一声で、「進級応援団」なる勉強会が組まれ、翌年には東大理三・理一などに合格する成績上位層による補講をタダで受けて、僕は這う這うの体で進級と卒業を果たしていた。今彼らを雇うとしたら鉄緑会に年間数十万円払う必要があると思うと、超VIP待遇であった。

 

 しかし、この大学に心優しい同期も、人懐っこく世話をしてくれる団長も居ない。加えて遅刻してノートを取れなかった時、授業内容が分からず単位を落とし掛けた時に救済してくれる友人を、僕は入学後1人も作っていなかった。

 

 そんな僕は、大学の定期試験の難易度がどの程度か、どの授業が"楽単"なのか、"落単"'留年"がどの程度発生するのか、などの普通の大学生であれば部活やサークルで容易く手に入る情報を、全く持ち合わせていなかった。こんなどうでも良いところで情報格差を実体験する事になるとは……。

 そして情報不足は見えない恐怖となり、重い足を教場へと向かわせ、寝惚け眼を開かせ、十数年使っていなかった脳味噌を働かせる事となったのである。

 

 

(3)僕は友達がいない (主人公ADM内野手(CV.木村良平))

 

 そもそも何故友達が1人も居ない状況に陥ったのか、という点について記述しておく。

 「大学行ってなかったんだろ?」という指摘が飛んできそうだが、そんなことはない。入学式には堂々遅刻したものの、その後のオリエンテーションのようなイベントには一応ちゃんと参加していた。「ドラッグは危ないよ!手を出さないで!」と説明している職員の話し方が、ラリっている人そのものだったり、壇上に上がる上級生の髪が皆染まっていてカルチャーショックを受けた記憶がある。

 普通の人間ならそこで何かしらのコミュニティを形成するらしく、事実周りを見渡すとそうなっていたので、僕は相当頭のおかしい奴だったようだ。

 

 僕も「(近くの奴と何か話さないと……)」とは思っていた。しかし、困った事に会話の方法が全く判らないのである。

 コミュ障*4の方にはお分かり頂けると思うのだが、まず初対面の人に対して、自分から話しかけるべきなのか、相手が話しかけて来るのかが分からない。第一声に何を言えば良いのかが分からない。何ならそもそも声の発し方も使い方もよく分からない。声帯を震わせるのか、発音筋を収縮させるのかどっちだっけ。

 そんな事を思案しているうちに、周囲では席が近い同士で雑談を始め、数分経てば僕の頭上を会話のキャッチボールが飛び交う、今後数年間経験し続ける事になる光景が広がっていた。

 結局話相手もいないので、Twitterを徘徊して、気が済んだら仕切って下さっていた先輩方に見つからないように(というか彼らは僕みたいなぼっちが周りと馴染めるように率先して動くべき立場であったような気もする)、学内コミュニティの説明をしていた会場を後にした。思い返すのも惨めである。

 

 1年生の履修は、大半の学生が似たり寄ったりになり、自然と仲良しグループが確立される。僕はというと、サークルの新歓も落ち着く時期には、当然のように5人席のど真ん中を占拠し、両側に荷物を置き授業を受ける、近寄ったらヤバそうな奴になっていた。

 この頃になると、もう友達を作ろうとか、誰かとLINEを交換しようとか、思う事もなくなっていた。中高と卓球部に所属していた事もあり、4月に学内の卓球サークルに新歓を含め2度ほど参加したが、馴染む事なく直ぐに辞めてしまった。

 会話も「打ちませんか?」「ありがとうございました。」の二言以外を発することが殆ど無かった。完全にコミュニティへの同化を拒否していた様に思う。

 

 こんな一幕を覚えている。タダ飯が食えると着いて行った新歓の際に、同じ1年生が集められたテーブルで「高校どこだったか?」という話が始まった時のことだ。一番端の席で飲みたくないコーラを目の前に、TLを徘徊していた僕は、その話題になった途端ほぼ反射的にトイレへと退避した。

 (仮に話題を振って貰えたとして)素直に「開成」の2文字を出すべきだったか、卒業を翌年に控えた今でも答えは出せない。

 もしかしたら、当時の自分の心の重荷が少し取れて、周りと馴染めた可能性が芽生えたかもしれないし、煩わしい人間関係が増えるだけだったかもしれない。

 何のプライドが邪魔したのか、何を嫌がったのかは定かではないが、この出来事は、単にコミュニティに入ることができなかった事以上に、後の学生生活に影響を与えることになる。

 

 というのも、自分の所属大学と並べた時に、"開成卒"の看板が邪魔になると感じてしまったのだ。中高6年間で育んだ些細なアイデンティティーとその看板を見せることに対し、考えるより先に抵抗を覚えた事は、大学生活で自己喪失感を抱えたまま過ごす事と同義であった。

 それに気づいてからの行動は簡単だった。目覚まし時計を2つセットし毎日早起き。1限開始の10分前には着席し、粛々とノートを取り、昼休みは壁に向かって弁当を食べ、授業が終わったら真っすぐ帰宅することの繰り返し。

 

 中高時代の自分を殺す学生生活は、6年間で覚えたさぼり癖を一時的に捨てることでもあった。徹夜明けで寝過ごして南栗橋東武動物公園駅まで辿りつき、酷いときには授業終了後に学校に到着する睡眠優良児は何処にもいなかった。

 

 だが、中身が更生していたかというとそんな事はない。2019年版犯罪白書*5によると、昨年の検挙者のうちの再犯者率は48.8%らしい。

 法務省は29日、昨年の犯罪件数や傾向をまとめた2019年版犯罪白書を公表した。警察が昨年把握した刑法犯の認知数は、81万7338件(前年比約11%減)で、戦後最少を更新した。また、検挙者のうち再犯した人の割合を示す再犯者率は、前年より0・1ポイント増えて48・8%となり、過去最悪となった。 朝日新聞デジタルより

 人間そう簡単に変わることは出来ないのである。

 前述した通り、真面目学生のフリをしていたのは、自分の頭とノートしか頼るものがない、つまり愉快なパーティーメンバーもいつの間にか自分に惚れてるヒロインもいない、残念な村人Aとしての転生を果たしてしまったからだ。

 

 しかしそんな孤独な生活に転機が訪れる。陰キャぼっち童貞ADM内野手は、パラメーターアップのためにアルバイトを始める決心をしたのである。

                         

                                   続く

 

*1:転生したらスライムだった件」WEB版より改変

*2:転生したらスライムだった件」WEB版 序章より改変

*3:開成の実力テストで裏13~2の成績を取った人のこと。第40代黒組パンフレット用語集より(この注釈の為にパンフを開いたら「テスト」の文字が「エスト」と誤字っていたのを発見。すずさんごめん……)

*4:広義のネットスラングの意として用いている点をご了承ください。

*5:法務省HP http://www.moj.go.jp/housouken/houso_hakusho2.html